伏見御普請中法度事
一、喧嘩口論一切可令停止事、
付、荷担之輩於有之者、妻子共可為死罪事、
一、今般御普請中、侍小者届なく上方衆成敗候共、其砌令堪忍、追而可及理事、
一、御普請奉行申付儀、少茂違儀有間敷事、
一、御普請中より欠落之者於有之者、妻子共可行死罪事、
一、所々宿々にて、少茂狼藉有間敷事、
右所定如件、
文禄三年二月五日 (家康朱印)
(宛所なし)
中村孝也『徳川家康文書の研究 拾遺集』111~112頁
(書き下し文)
伏見御普請中法度の事
一、喧嘩口論一切停止せしむべきこと、つけたり、荷担の輩これあるにおいては、妻子とも死罪たるべきこと、
一、今般御普請中、侍・小者届けなく上方衆成敗候とも、そのみぎり堪忍せしめ、おってことわりにおよぶべきこと、
一、御普請奉行申し付けの儀、少しも異議あるまじきこと、
一、御普請中より欠け落ちの者これあるにおいては、妻子とも死罪におこなわるべきこと、
一、所々宿々にて、少しも狼藉あるまじきこと、
右定むるところ、くだんのごとし、
(大意)
伏見城御普請中禁止の条々
一、喧嘩や口論は一切禁止する。つけたり、喧嘩に荷担する輩がいた場合は、妻子ともに死罪とする。
一、この度の御普請中、侍や小者が届けなく上方衆によって成敗されることがあっても、その時は堪え忍ぶようにし、後日事情を説明しなさい。
一、御普請奉行に任命されても、少しの異論も口にしないこと。
一、御普請現場から逃走した場合はは、妻子とも死罪とする。
一、あちらこちらの宿にて、少しも狼藉を働かないようにしなさい。
右の通り定めた。以上。
* 御普請:「御」は秀吉への敬意を示している。
*上方衆:上方に城をもつ豊臣系大名、あるいはその家中。
* 侍・小者:「侍」は武家奉公人、「小者」は陣夫役で徴発された百姓と思われる。
*理:「ことわる」理非を論ずる、判断する。事情を説明する。
*「追而可及理事」:喧嘩両成敗は「理非を論ぜず」双方同罪とする。ここでは、喧嘩を売られても買うことなく、後日然るべき所へ訴え出て、そこで「理非曲直」を論じなさいと命じている。