尚以先日者何ニても見*1やけ可遣候処、いとまこいなく*2被帰候、如何之事候哉、
返〻郡はつれ*3の事、能〻あらためて、其方へおさめ可置之候、以上、
先度者為見舞上国*4苦労之至、令祝着候、仍其元郡はつれの知行之事、代官職申付候条、其方可有納所候、猶増田仁右衛門尉*5可申候、恐〻謹言、
藤吉郎
六月廿七日 秀吉(花押)
亀井新十郎殿*6
進之候*7
「一、198号、65~66頁」
(書き下し文)
先度は見舞として上国苦労の至り、祝着せしめ候、よってそこもと郡外れの知行のこと、代官職申し付け候の条、そのほう納所あるべく候、なお増田仁右衛門尉申すべく候、恐〻謹言、
なおもって先日はいずれにても土産遣わすべく候ところ、暇乞いなく帰られ候、いかがのことに候や、かえすがえすも郡外れのこと、よくよく改めて、そのほうへ納めこれおくべく候、以上、
(大意)
先日はお見舞いのため上京し、ご苦労が多かったことと存じます。さてあなたの知行地が郡外れにあることについて、在地の有力者に代官職を命じたので、年貢諸役は必ずあなたの手許へ納められるはずです。なお詳しくは増田が申し上げます。恐〻謹言。
なお、先日はお土産でも持たせるべきところ、お別れのあいさつもなくお帰りになり、どうしたことでしょう。くれぐれも郡外れの知行地について調べた上で、年貢諸役をあなたのお手許へ納めさせます。
かなりの省略があるので意味が読み取りにくい。ひとつは「郡外れの知行」が具体的にどこなのかはっきりしないこと。もうひとつは「代官職申し付け」た相手が誰なのかである。ここでは、「郡外れ」であることから亀井が年貢諸役の安定的納入を不安に思い、秀吉が現地の者に代官職を命じたのでそれを保証したと解釈した。在地に勢力基盤を持たない領主にとり、いかに年貢諸役の安定的確保がむずかしかったかを物語る史料といえる。
少々興味深いのが尚〻書きの部分である。「暇乞いなく帰られ候、いかがのことに候や」とはずいぶん感傷的である。ひと言もなく帰ってしまった亀井の気持ちを推し量れず、不安に駆られる秀吉の心情が垣間見える。亀井宛の秀吉文書は複数残されているが、後年になるにしたがって尊大な形式となり、料紙も巨大化する。人間関係の変化がたどれる貴重なコレクションである。