覚
一、分国置目、此節可申付事、
一、簡要城堅固申付、其外下城事、
一、海陸役所*1停止事、
一、人数揃事、
一、蔵納申付、九州弓箭覚悟事、
一、門司*4・麻生*5・宗像*6・山鹿*7城々へ人数・兵粮可差籠事、
一、至九州通道可作之事、
一、筑前検使*12、安国寺*13・黒田官兵衛*14被仰付事、
一、高麗御渡海事、
一、大友*15与深重可申談事、
一、大仏殿材木事*16、
已上
四月十日*17(朱印)
毛利右馬頭殿*18
(三、1874号)
(書き下し文)
覚
一、分国置目、この節申し付くべきこと、
一、簡要の城堅固に申し付け、そのほか下城のこと、
一、海陸役所停止のこと、
一、人数揃えのこと、
一、蔵納申し付け、九州弓箭覚悟のこと、
一、豊前・肥前人質取り堅むべきこと、
一、門司・麻生・宗像・山鹿城々へ人数・兵粮差し籠むべきこと、
一、九州にいたる通り道これをつくるべきこと、
一、一日路・一日路御座所城構えること、
一、赤間関、御蔵立つべきこと、
一、筑前検使、安国寺・黒田官兵衛仰せ付けらるべきこと、
一、高麗御渡海のこと、
一、大友と深重に申し談ずべきこと、
一、大仏殿材木のこと、
已上
(大意)
覚書
一、分国の決まりをこの際命じること。
一、要所要所の城の守りを固め、そのほかは下城すること。
一、海路及び陸路の関所は廃止すること。
一、軍勢を準備すること。
一、蔵に兵粮を蓄え、九州勢との戦争に準備すること。
一、大友氏と竜造寺氏の人質を確保すること。
一、門司・麻生・宗像・山鹿の城へ兵と兵粮を入れること。
一、九州への道をつくること。
一、一日路ごとに御座所をつくること。
一、赤間関に蔵を建てること。
一、筑前の検使として安国寺恵瓊と黒田孝高を命ずること。
一、朝鮮半島へ秀吉自身が渡れるよう準備をすること。
一、大友義統とよく話し合うこと。
一、大仏殿建立のため材木を調達をすること。
以上である。
Fig.1 豊前門司および筑前山鹿・麻生・宗像周辺図
Fig.2 東福寺と方広寺
全体として迅速な軍事行動を可能にするための交通整備および兵站に関する条目が目立つ。一方で不必要に城へ兵が集まることを禁じていて、抵抗の芽を摘む効果も狙っている。
三ヶ条目の陸海の関所を廃止することは、移動を迅速化する交通政策であると同時に、毛利氏による関銭徴収権の剥奪、つまり大名の権益を秀吉のもとへ委譲する意味ももち注目される。軍事的・政治的勢力圏の拡大と同時に豊臣政権への経済的権益の集中化を図る、水平的にも垂直的にも勢力を拡大したものといえ、「作あい否定」や「一職支配」といった太閤検地の方向性と相似形をなしていて興味深い。