日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

旧国郡と道府県 「麒麟がくる」のための地理的予備知識

2020年の大河ドラマ明智光秀が主人公と決まってから、光秀ゆかりの地がにわかに脚光を浴びるようになった。特に後半生丹波国が舞台となることから国郡と道府県*1の関係に注意が必要となる。丹波国京都府兵庫県に分割されているので、現行の行政区分で考えるのは混乱のもとになりかねない。さらに不幸なことに光秀の居城、丹波亀山が明治期に伊勢亀山と誤解されないように「亀岡」と改称されていることから、逆に伊勢亀山へファンが押しかけるという懸念も払拭できない。実際滋賀県草津市に、群馬県草津温泉があると誤解し、温泉目当ての観光客が訪れることも珍しくないと聞く。

丹波国の分割事情を御覧いただこう。

Fig.1 丹波国京都府兵庫県への分割編入概念図

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                    『国史大辞典』「丹波国」より作成

おおむね緑の線に沿って大きく二分割されたことがわかる。2019年10月現在の行政区分は以下の通りである。京都府に「京丹波町」があり「南丹市」もある。一方の兵庫県側は「丹波市」、「丹波篠山市」とあり、とりわけ兵庫県篠山市が2019年5月「丹波篠山市」と改称したことは記憶に新しい。それだけ「丹波国」を冠することにネームバリューがあることを物語っている。

 

Fig.2 丹波国兵庫県京都府自治

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ところで「郡」という単位は明治10年代から郡役所が置かれたものの大正期に廃止されてから行政単位、戦後の自治体としては存在しないが、教科書の採択や運動部の予選の単位として市町村のゆるやかな連合体のように機能している場合もある。市町村の合併につぐ合併で郡部は姿を消しつつあるが、地下水脈のように郡としてのまとまりは無視できないものがある。

 

その一方、1府3県に分割された郡もある。下総国葛飾郡である。

 

Fig.3 下総国葛飾郡の1府3県への分割

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                    『国史大辞典』「下総国」より作成

まず道府県は当初流動的でしばしば変更されており、一概に言えないがおおむね東京府南葛飾郡、千葉県東葛飾郡、埼玉県北葛飾郡中葛飾郡(のち中葛飾郡北葛飾郡編入)、そして茨城県西葛飾郡に分割され、今日に至っている。

 

現在の47都道府県が確定したのは1972年の沖縄県復帰以後なので、たかだか半世紀弱の歴史を持つに過ぎない。行政区分を絶対的・固定的に捉えると足をすくわれることがある。また各種調査が行政単位で集計されていることで、その枠組みを自明視してしまい、地域の実態をかえって見にくくする点も注意する必要がある。

*1:東京府東京市が発展的に解消して東京都となる1943年より以前の事情を説明するので「道府県」とする