(史料1)
去八日書状并安国寺*1紙面之通、今月廿一日於京都加披見候、然者其方久留米へ相越、先之様子被聞合之由尤候、誠去年以来長〻在陣、其許可有付*2内、無幾程出陣之儀、辛労之段痛入候、先書如仰遣候、陸奥守*3肥後国侍ニ朱印之面知行等依不相渡候歟、俄検地申付、百姓以下及迷惑*4候歟、企一揆之段、陸奥守所行*5、沙汰之限候、就其行*6等之儀、藤四郎*7・安国寺かたへ申遣、不可有由断候、森壱岐守*8・黒田勘解由*9罷立之由候間、是又遂相談可然候、龍造寺*10・立花*11・筑紫*12・鍋島*13かたへも被成御朱印候、猶得其意可申聞候也、
九月廿一日*14(朱印)
小早川左衛門佐とのへ*15
(三、2307号)(史料2)
肥後面之儀、早速相動、抽粉骨之旨、従安国寺かた申越、被聞召候、神妙思召候、春以来永〻在陣之上、無幾程出陣之儀、被痛入候、陸奥守国侍共*16ニ朱印之面知行等依不相渡候歟、又頓*17検地申付、百姓等迷惑仕候様ニ在之故候哉、一味同心ニ企一揆之段、沙汰之限思召候、陸奥守不相届*18儀者、中/\*19不被及是非*20候、然者行等之事、藤四郎・安国寺申談、弥可入精事肝要候、人数入付而者、追〻可被差遣候条、丈夫令覚悟、不可有由段候也、
九月廿一日*21(朱印)
鍋島飛騨守とのへ*22
(三、2309号)
(書き下し文)
(史料1)
去る八日書状ならびに安国寺紙面の通り、今月廿一日京都において披見を加え候、しからばその方久留米へ相越し、先の様子聞き合わさるの由もっともに候、まことに去年以来長〻在陣、そこもと有り付くべきうち、いくほどなく出陣の儀、辛労の段痛み入り候、先書仰せ遣わし候ごとく、陸奥守肥後国侍に朱印の面知行など相渡さざるにより候か、にわかに検地申し付け、百姓以下迷惑に及び候か、一揆を企つるの段、陸奥守所行、沙汰の限りに候、それについて行などの儀、藤四郎・安国寺方へ申し遣わし、由断あるべからず候、森壱岐守・黒田勘解由罷り立つの由に候あいだ、これまた相談を遂げしかるべく候、龍造寺・立花・筑紫・鍋島方へも御朱印なされ候、なおその意を得申し聞くべく候なり、
(史料2)
肥後おもての儀、早速相動き、粉骨を抽くの旨、安国寺方より申し越し、聞し召され候、神妙に思し召し候、春以来永〻在陣の上、いくほどなく出陣の儀、痛み入られ候、陸奥守国侍どもに朱印の面知行など相渡さざるにより候か、またやがて検地申し付け、百姓など迷惑仕り候ようにこれあるゆえに候や、一味同心に一揆を企つるの段、沙汰の限りに思し召し候、陸奥守相届ざる儀は、なかなか是非に及ばれず候、しからば行などのこと、藤四郎・安国寺申し談じ、いよいよ精を入るべきこと肝要に候、人数入るについては、追々差し遣わさるべく候条、丈夫に覚悟せしめ、由段あるべからず候なり、
(大意)
(史料1)
先日八日付の書状ならびに安国寺よりの書面の通り、今月廿一日京都において拝読しました。そなたが久留米へ移り、前線の様子をお聞きになったとのこと喜ばしい限りです。実に昨年以来長期にわたる在陣で、本来なら安住すべきところ、ほどなく出陣したこと、ご苦労なことです。先日の書面に伝えましたとおり、陸奥守肥後国侍に朱印状の書面にある知行地などを渡さなかったせいでしょうか、すぐに検地を命じ、百姓以下を困惑させたせいでしょうか、一揆を結ぶにいたったこと、成政のとんでもない不手際です。それについての作戦など、秀包や恵瓊に申し伝えましたので、くれぐれも油断のないように。吉成・孝高も出陣するとのことですので、彼らともよく相談して下さい。政家・宗茂・広門・直茂方へも朱印を発しましたので、お含み置き下さい。
(史料2)
肥後方面のこと、早速作戦を開始し、ご活躍の件、恵瓊より報告があり、耳に届いております。実にすばらしいことです。この春以来長期にわたって在陣した上、幾日もなく出陣されたこと、恐れ入ります。成政が国侍たちに朱印状の書面にある知行など渡さなかったためでしょうか、またすぐに検地を命じ、百姓などが困窮するようにしたためでしょうか、一味同心して一揆を結ぶにいたったこと、実にけしからぬことだと思います。成政の不調法は、もはや議論する余地もありません。そういうわけですので作戦などについては、秀包・恵瓊と相談し、入念に行うことが大切です。軍勢が必要なときは、近々派兵しますので、大丈夫と過信することなく油断のないようにしてください。
Fig. 筑後国・肥前国・肥後国周辺図
史料1・2ともに下線部でにわかに検地を命じ、百姓たちを困窮させた成政の罪は重いと断じている。