(竪紙)
敬白天罰灵*1社起請文前書
一、今度御流儀忍術御伝授忝奉存候然者御
相伝之忍術忍器共ニ喩親子兄弟たりと
いふ共他見他言仕間敷候尤知ぬ躰ニもてなし*2
人ニ写させ申間敷候
一、萬川集海*3之内序正心忍宝之章*4ハ君命ハ
不及申家老出改人見申度と御申候て懸御目
申筈ニ御免被下候事
一、此迄持来御忍器火器之外萬川集海之外
珍敷方便忍器火器考出シ候ハゝ御知を可申候
一、若師と不通*5之義出来申候ハゝ書写候書物返還
可申候跡ニ而書写置申間敷候
一、萬川集海之秘術外之書へ書ましへ*6申間敷候
一、御相伝之忍術忍器為盗賊少も用間敷候但シ
何ニよらす君命ハ各別*7之事
右之通少も相背申間敷候若少ニ而も於相背者日本国中
六十余州大小之神祇殊ニ氏神之御申付子〻孫〻
身上深厚ニ可蒙罷者也仍如件正徳六丙申年 木津伊之助
六月三日 保□(花押)
長井又兵衛様
(書き下し文)
敬白天罰灵社起請文前書
一、このたび、御流儀忍術御伝授かたじけなく存じたてまつり候、しからば御相伝の忍術・忍器ともに、たとえ親子兄弟たりといふとも、他見・他言つかまつりまじく候、もっとも知らぬていにもてなし、人に写させ申すまじく候、
一、萬川集海の内、序・正心・忍宝の章は君命は申すに及ばず、家老・出改人見申したくと御申し候て、御目にかけ申すはずに御免下され候こと、
一、これまで持ち来たる御忍器・火器のほか、萬川集海のほか珍しき方便・忍器・火器考え出し候ハゝ、御知らせ申すべく候、
一、もし師と不通の義出来申し候ハゝ、書き写し候書物返還申すべく候、あとにて書き写し置き申すまじく候、
一、萬川集海の秘術、ほかの書へ書き交え申すまじく候、
一、御相伝の忍術・忍器、盗賊のため少しも用いまじく候、ただし何によらず君命は各別のこと、
右の通り少しもあい背き申すまじく候、もし少しにてもあい背くにおいては、日本国中六十余州大小の神祇、ことに氏神の御申し付け、子〻孫〻身上深厚に罷り蒙るべきものなり、よってくだんのごとし、
(大意)
敬白天罰灵社起請文前書
一、このたび、この流儀の忍術を御伝授下さりかたじけなく存じます。さて御相伝の忍術・忍器ともに、たとえ親子兄弟とはいっても、他人に見せたり、他言することは一切しません。とくに知らぬ風を装って、他人に書き写させることはいたしません。
一、萬川集海の内、序・正心・忍宝の章は、主君はもちろん、家老・出改人が見たいとおっしゃった場合、ご覧に入れるはずとのお許しが下だされることになっています。
一、これまで伝え来た御忍器・火器のほか、萬川集海に記述のない、珍しい忍術・忍器・火器を考え出したならば、ご報告いたします。
一、もし師弟の縁を切るようなことになれば、書き写した書物をお返しいたします。あとに残るように書き写し置くことは一切いたしません。
一、萬川集海の秘術を、ほかの書物へ書き込むことはいたしません。
一、御相伝の忍術・忍器、盗みのために用いることはいたしません。ただし目的がなんであれ、主君の命令ならばこの限りではありません。
右の条々少しも背きません。もしほんの少しでも背いた場合は、日本国中六十余州大小の神祇、ことに氏神の罰を、子〻孫〻にいたるまで蒙ります。以上です。