日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

元和3年1月藤堂高虎条目を読む(部分) 人身売買の禁止

人身売買の禁止は古くから見られる。試みに東京大学史料編纂所大日本史料総合データベース」で「人身売買」を検索すると以下の結果が得られる。

 

Table.1

No 和暦年月日 綱文 区分
1 延応1年4月14日 幕府、家人の官位競望、惣地頭の領内名主職押妨、及び鎌倉中僧徒の官位競望を停止し、勾引人及び人身売買者の捕進、奴婢雑人糺返の時の直法を定む、 5 12 402
2 延応1年5月1日 是より先、綸旨を下して、人身売買を禁ず、是日、幕府、之を令す、 5 12 426
3 仁治1年5月12日 (第二条)幕府、和泉守護所をして、人身売買を停止せしめ、違犯の輩の在所及び交名を注申せしむ、 5 12 852
4 建長6年10月12日 幕府、武士の狼藉及び人身賣買を停止せしむ、 5 904 807
5 正應3年2月13日 幕府、令して、造作、修理、替物用途、オウ飯役、五節供を百姓に課することを停止し、人身賣買、沽酒及び六齋内二季彼岸日の殺生を禁斷せしむ、 5 905 364
6 永仁1年5月25日 幕府評定、政務、庭中、人身賣買等を定む、 5 905 396
7 天正18年4月27日 秀吉、上杉景勝に答書し、上野松井田の地下人等を還住せしめ、又、人身売買を厳禁せしむ、 11 912 284
8 元和2年10月是月 (第二条)幕府、一季居奉公人及び人身売買無宿人等に係る禁令を頒つ、 12 25 701
9 元和3年10月28日 (第二条)幕府、人身売買、勾引及び一季居奉公人に関する禁令を佐渡国に頒つ、 12 28 219
10 元和4年2月18日 (第二条)幕府、一季居、年季奉公人、人身売買、覆面、煙草等に係る禁令を申ぬ、 12 29 66
11 元和5年2月10日 (第三条)幕府、一季居奉公人、人身売買、無宿人、煙草、欠落者等に係る禁令を申ぬ、 12 30 478
12 元和5年12月22日 (第二条)幕府、人身売買、長年季奉公、駈落者等に係る禁令を頒つ、 12 32 178
13 元和7年9月20日 (第二条)陸奥会津若松城主蒲生忠郷、城下に、牢人の宿泊・請人・借銭・借金・口入・人身売買・夜番等に関する令を頒つ、 12 38 338
14 元和8年6月是月 (第一条)幕府、一季居・人身売買・年期奉公人・覆面・煙草等に関する条規を定む、 12 45 210
15 元和8年6月是月 (第一条)幕府、一季居・人身売買・年季奉公人・覆面・煙草等に関する条規を定む、又、喧嘩口論の場・賜死の場及び失火の地等に臨むことを禁ず、(綱文を改訂す) 12 49 142
16 寛永2年8月27日 幕府、喧嘩・口論・死刑・失火・雇人・人身売買・負傷者・浮浪・借家・辻立・門立等のこと並に伝馬賃・銭価・撰銭及び関門に関すること等の条規を定む、 12 916 99
17 寛永3年閏4月27日 (第一条)幕府、人身売買・手負人の隠匿・宿駅に就きて定む、 12 916 119
18 寛永4年1月18日 (第二条)幕府、人身売買及び雇人年期・闘争・刑場・失火等の禁令を定む、 12 916 143
19 寛永6年8月20日 陸奥仙台城伊達政宗、領内百姓の人身売買・用船・御用材伐採等に関する条規を定む、 12 916 218
20 寛永10年2月2日 (第二条)幕府、人身売買・伝馬等のことに就きて、条規を定む、 12 917 5
21 寛永10年7月18日 幕府、人身売買・道中の駄馬賃等に就きて令す、 12 917 20
22 寛永12年5月13日 (第二条)幕府、人身売買・年季・伝馬・駄賃等に就きての掟を下す、 12 917 88
23 寛永13年7月是月 (第一条)肥後熊本城主細川忠利、封内の男女質入及び売買に関する条規を定む、 12 917 133
24 寛永14年2月2日 幕府、人身売買・年季奉公・駄賃・宿賃等に就きて定む、 12 917 150
25 寛永14年5月是月 (第一条)幕府、元和五年十二月の人身売買の禁令以前に係るものは、之を裁断せざる旨を令す、 12 917 158
26 寛文6年6月22日 幕府、豊後肥田郡・伊豫宇麻郡に人身賣買の禁止、及ひ奴婢雇使の期限等七條を掲示す、 99    

 

なお、ここでヒットしなかった前回*1読んだ藤堂高虎が発した条目にも人身売買の禁が見える。

 

一、人のうりかひ一円停止事、

 

(書き下し文)

ひとつ、人の売り買い、一円停止のこと、

 

(大意)

ひとつ、人身売買を禁ずる。

                     『大日本史料』12編、25巻、510頁

 

ただし、この条目は藤堂家中に宛てて出されたものなので、領国内での人身売買を全面的に禁じたものとはいえない。家中以外は以前と同様に行っても罪に問わないことを意味する。データベースでヒットした26件も人身売買そのものを全面的に禁じたともいいがたい。

 

むろん、現実にこうした禁令だけで人身売買をなくすことはできない。むしろ数百年の間、なかでも徳川期に頻繁に発せられていることを考えると、有効な手段ではなかったのだろう。