増田四郎氏はヨーロッパ中世史の研究者で、門下生に「ハーメルンの笛吹き男」や「世間学」で著名な阿部謹也氏、ピレンヌテーゼで世に知られるアンリ・ピレンヌの著書を邦訳された佐々木克巳氏、学生に英語以外の外国語でレポートを提出させたと仄聞するビザンツ史の渡辺金一氏などがならぶ。
本書で指摘された問題や誤解、俗説の類はいまだ一向に解消していない。歴史と歴史学をめぐるさまざまな問題は古くて新しい永遠の課題なのであろう。
ここでいくつか引用し、歴史学という営みがいかなるものか、再確認したい。
また一部では史的事象を細大もらさず記憶していることをもって、歴史家であるかのごとく誤解する傾きもあるが、博覧強記そのものは決して歴史的な考え方とはいい難い。共感を覚え、教訓をよみとり、史実を記憶することは、それ自体誤ったことではないが、歴史的な考え方の基礎というものは、そのような点にあるのではなく、(中略)客観的に理解しようとする要請に根ざしているものであることを、きびしく反省しなければならない。今日の歴史学は、断じて史家の「閑事業」ではなく、まさしくこの反省から出発する学問なのである。 25頁
ある過去の歴史的事象の意義が、その事象を取り扱う歴史家の数だけ異なった判断が下されえても、なんら不都合ではないという事実(以下略) 36頁
(イタリック、強調は引用者)
図書館に架蔵されていると思うので、ぜひ一度目を通されることをお勧めする。