『中世法制史料集 第五巻 武家家法Ⅲ』 256頁
定 宮田市場
一、喧嘩(「嘩」=口偏に「花」)口論、押買、狼藉停止之事、
一、國質、所質、請取沙汰,諸式非分之族停止之事、
一、毎月市日 四日 八日 十二日 十七日 廿一日 廿五日
右條々(踊り字は二の字点)於違犯之輩者、速可處巌科者也、仍如件、
(惟任光秀)
天正八年七月日 (花押)
(書き下し文)
定 宮田市場
一、喧嘩、口論、押買、狼藉停止の事、
一、國質、所質、沙汰を請け取り,諸式非分の族、停止の事、
一、毎月市日は四日、八日、十二日、十七日、廿一日、廿五日
右の条々違犯の輩においては、すみやかに巌科に処すべきものなり、よってくだんのごとし、
*宮田:丹波国多紀郡 旧高旧領取調帳では幕末維新期「篠山藩領宮田村310石」
旧高旧領取調帳データベース database
丹波国と現在の行政区分は以下の通り
*國質、所質:ほかに「郷質」もある。中世社会の貸借関係にもとづく債権者の債務者に対する質取り(私的差押え)行為の一形態で、たとえばある者の財産が侵害された場合、その加害者が属する「所」、つまり「国」であれ「郷」であれまったく別の者から同等の財産を奪うこと。怪我をさせれば同様に同じだけの怪我を同じ国や郷に所属する者に与え、殺害された場合も同様にその人数だけ殺害する慣行。豊臣政権の「惣無事令」でこれらを「私戦」として禁止するまで中世に広く見られた自力救済の原則。光秀がこのように国質、所質を禁じたということは、豊臣政権と同様の指向性を持っていたことを示す。
*請取沙汰:中世の訴訟で、訴訟を第三者に委託することを「沙汰を寄せる」といい、第三者がこれを受託することを「沙汰を請け取る」という。有力者に依頼し、その依頼された者が訴訟の当事者となり、裁判を有利に運ぶ法廷技術。スラップ訴訟に似ている。光秀はこれを禁じた。
*諸式:「諸色」とも書くがその場合は物価という意味で使われることが多い(e.g.「諸色高直」(しょしきたかね))。ここでは諸品、諸物、一切、万事といった意味で、「諸式非分之輩」で「あれこれと理不尽を行う者ども」ということ。