これまでの西郷は、自分を殺そうとした刺客にも手を合わせるほどのお人好しで、主君にひたすら忠実な、思想的にはいわゆる「ノンポリ」だった。水戸斉昭などから勤王思想の影響を受けた様子もなかった。
しかし、武装した兵士を上洛させ、朝廷に考えを改めさせるという案を斉彬に、涼しげに進言する場面を見て、はじめて「西郷どん」における西郷の思想を知った。
大名独自の判断による出兵は、幕藩制的秩序からの逸脱を意味するし、京で馬揃えを行うことは朝廷への威嚇となる。朝廷に弓引くこともいとわないと明言できる無神経さ度胸を、「危険思想」を西郷どんはいったいどこで身につけたのか、見当もつかない。