大仏殿*1大工*2并杣*3大鋸*4事、和州・紀州・江州・伊州・丹州五ヶ国*5、能〻相改可召仕候、殊其身者不能出、下手*6大工を為代出之輩可為曲事候、若無沙汰族*7於在之者、為身懲*8候条、堅可被仰付候、然者給人*9夫役*10事、最前如被仰出候*11、諸役*12有之間敷候条、猶以右通可申聞候、自然召仕諸役懸候者、給人之名を可書付上候、入念悉召寄、作事可指急候也、
六月廿一日*13(朱印)
木食上人*14
寺沢越中守とのへ*15
(三、2536号)
(書き下し文)
大仏殿大工ならびに杣、大鋸のこと、和州・紀州・江州・伊州・丹州五ヶ国、よくよく相改め召し仕うべく候、ことにその身は出るにあたわず、下手大工を代わりとしてこれを出す輩曲事たるべく候、もし無沙汰の族これあるにおいては、身懲らしとなし候条、かたく仰せ付けらるべく候、しからば給人夫役のこと、最前仰せ出され候ごとく、諸役これあるまじく候条、なおもって右の通り申し聞かすべく候、自然召し仕え諸役懸かりそうらわば、給人の名を書き付け上ぐべく候、入念ことごとく召し寄せ、作事指し急ぐべく候なり、
(大意)
方広寺大仏殿建立のための大工、杣人、大鋸について、大和、紀伊、近江、伊賀、丹波五ヶ国をよくよく調べ、召し出すように。特に本人のかわりに素行のよくない大工を代わりとして出す者は曲事とする。もし督励しても無視する者は見せしめとしてきびしく罰するものである。また、給人が百姓に人夫役を懸けることは以前申し触らしたように禁ずるので、その点給人らに申し含めるように。もし召し出した上に諸役を懸ける給人がいたなら、その名を書き記し言上しなさい。念を入れてことごとく徴集し、工事を急がせなさい。
Fig.1 方広寺周辺図
Fig.2 大鋸
Fig.3 和州・紀州・江州・伊州・丹州五ヶ国
本文書は方広寺建立のために畿内近国5ヶ国から大工や杣人、大鋸などの諸職人を招集するよう木食応其と寺沢広政に命じたものである。
「本人」のかわりを差し出すことを禁じているが、そのようなことが広く行われていたことを浮き彫りにしていて興味深い。
また下線部のとおり、この役儀を課されたものに他の役を懸ける給人を出さないよう命じている。秀吉家臣は領国経営の経験が少なく、人を酷使する心配があったのだろう。これは検地の原則とも平仄が合う。
なお命令系統が秀吉から応其・広政へ、そして「給人」=秀吉家臣たちの二段階になっていることは注意したい。