NHKスペシャル「大江戸」は時代劇としては面白いが、史実=再現ドラマかと問われると首を横に振らざるを得ない。好評だそうだがあくまでもフィクションとして楽しみたい。以前にも疑義をはさんだことがあるが、最大の問題はどこまでが史実の復元でどこからがフィクションなのか、番組を見た限り明確な線引きがなされていない点にある。このドラマには近世史の重要な論点でありながら、世間でよく誤解されている俗説にもとづいた事柄が多く含まれているので訂正しつつ近世史入門の教材としてリユースしたい。
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さてNHKのサイトには以下のようにある。
第1集 世界最大!!①サムライが築いた“水の都”
第1集は、巨大都市建設の物語。②小さな田舎町だった江戸は、徳川家康が幕府を開いてから100年ほどで、世界最多100万の人口を抱える大都市に成長した。③その原動力はどこにあったのか? 最近、江戸初期の都市計画を描いた最古の図面や、幕末期の江戸を写した写真が見つかるなど新たな発見が相次ぎ、その変遷が詳しく分かってきた。江戸は、水を駆使して造り上げた、世界に類をみないユニークな都市だった。巨大な“水の都”江戸誕生の秘密に迫る。
NHKスペシャル | シリーズ 大江戸第1集世界最大!! サムライが築いた“水の都”
まずタイトルの①が挑発的である。日本近世史研究に対する挑戦と言うべきかもしれない。中近世移行期における「侍」とはなにか、1980年代以降一般向けの新書などでも必ず触れられる論点であるが、どうも世間では誤解されたままという雰囲気がある。再現ドラマはこの誤解と予断に基づいてつくられたようである。
その根拠の一つは、細川家中の者が石切や運搬に従事したという文言のある史料を提示していないことにある。高解像度カメラでとらえた江戸城の石垣にある各大名家の刻印からそう断定したようだが、大名家が公儀普請を請け負ったからと言って家中がその労役に従事するわけではない。武家は軍役(戦闘員)、百姓は陣夫役(非戦闘員・陣地の構築など)というように近世の身分は負担すべき「役」と対応するので、軍役を務めるべき武家が百姓が担うべき陣夫役に従事することなど近世社会の根本原理の否定である。おそらく社会構造、慣習や公儀普請の人足徴発がいかなる手続きで行われるのか無関心であるためであろう。
次回以降「侍」とは何か「役」とはなにか史料に即して述べていきたい。