一、何事ニよらす百姓めいわき*1の事候ハヽ、めやす*2ニてそうしや*3なしにそせう*4可申候、又所此申とてすちなき*5事を申たき*6まゝニ申候ハヽきうめい*7のうへけつく*8其身曲事たるへき間、かねてよく下ニてせんさく*9せしめ可申上事、
一、定夫の外ニも、地下中又ハ郷となり*10ありき*11なとにハ給人につかわれ可申候、
(書き下し文)
ひとつ、何事によらず百姓めいわきのことそうらわば、目安にて奏者なしに訴訟申すべく候、またこの申すところとて筋なきことを申したきままに申しそうらわば、糺明の上結句その身曲事たるべきあいだ、かねてよく下にて穿鑿せしめ申し上ぐべきこと、
ひとつ、定夫のほかにも、地下中または郷隣ありきなどには給人につかわれ申すべく候、
(大意)
ひとつ、どのような問題にも関わらず、百姓が迷惑するようなことがあれば、奏者を経ることなく直接訴え出なさい。またこのさいに上申した点で筋違いのことを言いたい放題申したならば、真偽を糺した上でむしろその者を罪科とするので、あらかじめ在地にて調べた上で上申しなさい。
ひとつ、定められた夫役のほか、村内や隣郷へのありきなどには、給人に使役されなさい。
ここでは、直目安を奨励している。徳川家康にもこの直目安の方針は継承される。地頭や給人が百姓を「私的に」使役するようなことが頻繁に起こっていたのだろう。一地一作人の原則は年貢、つまり現物納での一元化をめざしていたのに対して、この直目安制度は「不当な」あるいは「私的な」労役などを含めて禁じたものである。
また村々の百姓へ触れ知らせる「ありき」としての人夫役は「公的」性格を持つので、給人の命じたとおりつとめることを命じている。