日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

天正3年12月2日百姓宛明智光秀徳政令写を読む

 

□□(無カ)質物借銭借米并金銀之事、

一、一年季田畠之事、

□(一)、□講并頼子之事、

一、はくち并諸勝負懸銭之事、

一、年貢古未進之事、

右、令棄破畢、若於違背之輩者、可処厳科、然而礼物之儀、一切不可有之并取次之者同前、所詮雖為聊、礼儀之取沙汰於有之者、双方速可加成敗者也、仍如件、

  天正

   十二月二日      日向守(花押影)

         在々所々

            百姓中

   藤田達生他編『明智光秀』(76頁)67号文書

 

(書き下し文)

(前欠)質物・借銭・借米ならびに金銀なしのこと、

ひとつ、一年季田畠のこと、

ひとつ、□講ならびに頼子のこと、

ひとつ、ばくちならびに諸勝負賭け銭のこと、

ひとつ、年貢古未進のこと、

 

みぎ、棄破せしめおわんぬ、もし違背のともがらにおいては、厳科に処すべし、しかりて礼物の儀、一切これあるべからず、ならびに取次の者同前、所詮いささかたるといえども、礼儀の取沙汰これあるにおいては、双方すみやかに成敗をくわうべきものなり、よってくだんのごとし、

 

*質物借銭借米并金銀:質入れしたもの、借銭、借米、借金銀

 

*一年季田畠:一年季売りの田畑。前近代日本の「売買」は年季を定めて売買する商慣習が一般的だった。

 

*□講并頼子:頼母子講など、村の成員が銭を出し合って積み立てるしくみ。

 

*はくち并諸勝負懸銭:博奕や勝負ごとで賭けをした場合の借金。

 

*年貢古未進:前年以前の年貢未進分。

 

(大意)

(前半略)

右の件すべて破棄すること。もしこれに背くものがあれば厳科に処す。そのさいに謝礼の金品をやりとりすることなどは一切禁止する。また、このやりとりを仲介した者も同罪とする。ほんの少しの金品でもこういったやりとりがあったら、贈った者、請け取った者双方とも処罰する。以上。

 

 

 

後半の礼物の禁止が、どのような場面で行われるのかはこの文書だけではよくわからない。債権者が債務者に対して、「礼物」を渡して借用関係を破棄しないようせまるようなことなのであろう。押し買いなど「安く買いたたく」商慣行が当たり前だった。また、借用関係以外にもさまざまな社会的関係が債権者、債務者を取り巻いていたので、借用関係から解放されたところで、生存は無理である。したがって、債権者が債務者に徳政に応じないよう迫られれば、それに従わざるをえないであろう。

 

禁止しているということは、頻繁に行われていたことを意味をする。