日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

「役に立つ」 石田三成九ヶ条村掟を読む その1

 

日本の近世社会は「役」と身分が対応する関係にあったと言われている。軍役(参勤交代など)を勤める武士身分、百姓役(年貢や夫役など)を勤める百姓身分などである。

 

 

 

   伊香郡内黒田町村*1掟条々

   当郷家数九拾五間*2の内

   一、六拾五間   後家・やもめ・寺・出棒*3

            其ほか奉公人*4・物不作

   一、卅間     夫役人*5

 

 

右用不立引、此卅間としてつめ夫*6弐人相つめ可申候、此外かつて出すへからす、此村へ他郷より出作分*7又ハ地下ニ田作り候て*8、夫不仕者よりいたす夫米*9ハ、右之弐人の詰夫の入用ニ可仕候、出作分おほく候て夫米あまり候ハヽ、地下のとく用*10たるべし也、

 

 

 

長浜市長浜城歴史博物館『石田三成と湖北』51~53頁(2010年)

   

 

 

(書き下し文)

 

  伊香郡内黒田町村掟の条々

   当郷家数九拾五間の内

 ①一、六十五軒   後家・やもめ・寺・出棒

            そのほか奉公人・物作らず

 ②一、三十軒    夫役人

 

右用立たざるを引き、この三十軒としてつめ夫二人あいつめ申すべく候、この外かって出すべからす、この村へ他郷より出作分または地下に田作り候て、夫つかまつらざる者よりいたす夫米は、右の二人の詰夫の入用につかまつるべく候、出作分多く候て夫米余り候はば、地下の徳用たるべしなり、

 

 

黒田村95軒は、寡婦や寡夫、寺、出稼ぎ人、その他の奉公人、「モノを作らない者、作れない者」が65軒、「夫役」を勤めることができる百姓=「夫役人」が30軒の、大きくふたつのグループに分けられている。

 

そして下線部は「右の者のうち、役に立たない者をのぞき、30軒の中から「詰め夫」を2名出しなさい」と命じている。

 

 

「地下の徳用」というように郷村共同体は惣有財産の所有者たり得た点は重要である。

 

*1:近江国伊香郡黒田村、『旧高旧領取調帳』によれば、旧彦根藩領で1411石余

*2:「軒」

*3:「出奉公」もしくは「デクノボウ」か

*4:傭兵

*5:「夫役」を勤める百姓

*6:「詰夫」、普請場や交通路に詰める夫役

*7:他の郷村から黒田村の耕地を耕しに来る者のこと。通常は黒田村から見れば「入作」となる

*8:黒田村の者が黒田村の耕地を耕している場合

*9:本来なら労働力として納めるべきところを、米で代納すること。青壮年男性など主要な働き手を徴発されると困るという事情があると思われる

*10:漢字は「得」ではなく「徳」を当てるが、意味は「得」になる。「収入」という意味。裕福な者を「有徳人」(うとくにん)と呼ぶ