日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

「麒麟が来る」必読文献 藤田達生他編『明智光秀ー史料で読む戦国史』から その1

 

明智光秀が注目されているという。明智光秀を知るには史料にあたるのが最善の道であり、手垢にまみれた光秀像に満足できない向きにはぜひお勧めの一冊である。

 

藤田達生他編『明智光秀ー史料で読む戦国史』(2015年)

明智光秀【史料で読む戦国史③】 | 商品詳細 | 八木書店 出版物・古書目録

 

ちなみに八木書店から出版される書籍は通常5桁を下らないので、かなりの廉価版だと思う。妙な書籍に飛びつくより安くつくはずである。

 

9号文書(34頁)

 

当郷軍役之請状此方ニ在之歟之由候、其砌取乱無到来候、若以後自何方出候共、可為反古候、将亦対両人被下置候御下知之写遣之候、不可有疑心候、恐々謹言、

 (永禄十二年)     明智十兵衛尉

   十二月十一日        光秀(花押)

     賀茂惣中

 

(書き下し文)

当郷軍役の請状、このかたにこれあるかのよし候、その砌取り乱し到来なく候、もし以後何方より出で候とも、反古たるべく候、はたまた両人に対し下し置かれ候御下知の写これを遣わし候、疑心あるべからず候、恐々謹言、

 

*当郷軍役之請状:永禄12年7月10日「山城賀茂荘中宛織田信長朱印状」(『織田信長文書の研究』上巻、311頁、188号文書)、同年4月10日「山城賀茂荘中宛幕府奉行連署奉書」(同書、311頁)に「軍役として百人ずつ陣詰め致すべし」とある。

 

*請状:主君や高貴な人から返事として受け取った書状

 

*両人:木下秀吉、明智光秀。4月14日付の上掲書189号文書

 

*御下知:この文書中の「請状」のこと

 

*賀茂惣中:山城国相楽郡加茂の荘園、現在の京都府木津川市

 

(大意)

当郷軍役の請状、こちらにあるかとの問い合わせの件ですが、取り紛れていてまだ到着していません。今後どこからかひょっこり請状が出てきても、反古にします。また秀吉・光秀両人に対し下された信長様からの御下知=請状の写を遣わしますので、けっしてお疑いになってはいけません。謹んで申し上げました。

 

 

織田信長もしくは室町幕府奉行衆からの文書の行方がわからなくなり、賀茂荘の百姓たちが光秀に文書がそちらにあるかどうかを尋ねたらしい。