日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

慶長5年9月15日秋山伊賀守宛直江兼続書状写を読む

東京大学史料編纂所大日本史料総合データベース」からまだ稿本のものを見つけたので掲載する。

 

直江兼続および慶長5年9月の史料目録はこちら。

 

docs.google.com

 

去十三日最上領、畑谷城乗崩撫切申付、城主江口五兵衛父子共首五百余討捕候、梁澤城茂明逃候、即在々令放火、昨十四日向最上居城在陣候、然所山形近辺之城五、六箇所是茂明逃候内、二三箇所降参候条、仕置丈夫申付候、近日隙明可申候、可御心安候、此旨可被達上聞候、恐惶謹言、

 

  猶々此書中調候内、敵働候 

  付而、則乗出、敵之首二百余

  討捕候、飛脚如見分候、追々

  可及注進候、庄内人数白岩寒

  江斎請取在陣候、以上、

           直江山城守

     九月十五日    兼続

       秋山伊賀守殿

 

 

「梁澤城明逃の事実は他書に見えず、詳細は不明、山形近辺大城五六箇所明退とあれどもこれもまた不詳」と史料採訪者は記している。

 

(書き下し文)

去る十三日、最上領畑谷城乗り崩し、撫で切り申し付け、城主江口五兵衛父子とも首五百余討ち捕り候、梁澤城も明け逃げ候、すなわち在々放火せしめ、昨十四日最上居城へ向け在陣候、しかるところ山形近辺の城五六箇所、これも明け逃げ候うち、二三箇所降参候の条、仕置丈夫に申し付け候、近日すき明き申すべく候、御心安んずべく候、この旨上聞に達せらるべく候、恐惶謹言、

 

  なおなおこの書中ととのえ候うち、敵働き候について、すなわち乗り出し、敵の首二百余討ち捕り候、飛脚見分のごとく候、追々注進におよぶべく候、庄内人数白岩寒江斎請け取り在陣候、以上、

 

 

(大意)

去る十三日、最上領内の畑谷城を攻め落とし、撫で切りを命じ、城主江口光清父子をはじめ首を五百あまり討ち取りました。梁澤城の軍勢も退却したので、すみやかに周辺郷村を焼き払わせました。昨十四日最上居城の山形へ向け陣中におりました。そうしているうち山形城周辺の城五、六箇所も同様に退却し、二、三箇所は降参しますと申し出ましたので、支配をしっかり命じました。近日中に手隙になるでしょう(=合戦はこちらの勝利で早々終わることでしょう)、どうかご安心ください。この件景勝さまに必ずご報告申し上げます。謹んで申しました。

 

  追伸 この書状をしたためているあいだに、敵方が攻めてきましたので、すぐに反撃し、敵の首二百あまり討ち捕りました。使者がお調べのとおりでございます。近々ご報告致します。庄内地方の軍勢は白岩城の寒河江義光が掌握することになっております。以上、

 

 

 

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Google マップによると、山形城、畑谷城、長谷堂城の位置関係は上の通り。

 

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国史大辞典」「出羽国略図」より作成

 

*畑谷城:山形城の支城のひとつ。置賜郡と村山郡の境。

 

*江口五兵衛:江口光清

 

*梁澤城:未詳

 

*明逃:退却

 

*在々放火せしめ:戦に勝てば城周辺の郷村を焼き払う、戦国の習い。直江兼続が特別だったわけではない

 

*最上居城:山形城

 

仕置丈夫:「成敗」とともに近世では処刑することの意味が強い「仕置」(必殺仕置人松平健の「成敗!」など)だが戦国期は「領主の権力的支配」という意味で、成敗も同様「政治を行なうこと。政務を執ること」も含むずっと広い意味「奥州仕置」とは「奥州の秀吉による「公的」支配」という意味になる。「服属しない奥州勢力を懲らしめる」という意味ではない。「丈夫」はしっかりと。

 

*隙明:「ひまあき」てすきの時。

 

*飛脚:急用を遠方へ伝える使者、戦果が申告のとおりか、盛っていないか確認する役人。

 

*見分:「検分」とも書く。立ち会って検査すること。状況を査察すること。みとどけること。取り調べること

 

*上聞に達せ:主君である上杉景勝に上申する、耳に入れる。

 

*白岩:寒河江氏の居城白岩城

 

*寒江斎:寒河江良光

 

*秋山伊賀守:上杉景勝家臣。天正10年閏12月に越中魚津での大火に際し、翌11年1月守備を命じられている。

             「大日本史料」11編3冊494頁

 

*猶々:追伸

 

追而書=追伸は通常文頭に来るので、文末というのも気になるし、兼続の花押があったならば「在判」などと書かれるがそれもない。写としてはかなり雑すぎる。