日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

慶応4年7月アカハネ手代文蔵・同清次郎・船宿永田茶右衛門宛本間正七郎金子預証文(西郷隆盛関係文書)を読む

BS放送西郷隆盛関係の文書が紹介されたようだ。文書の内容に触れずじまいだったので、ここで読んでみる。

 

   覚

一、金壱万八千両七百五拾両也、  内千両入拾弐箱

                 同千弐百五十両之箱

                 同八百枚入外箱

                 同九百枚入尽箱

                 同五百枚入之箱

                  〆拾九箱御封印之侭

一、同壱万五千七百八拾三両也、  鉄炮含薬代

                 全〆

二口

〆金三萬四千五百三拾三両也、

右之通無利足ニ而慥ニ預置申処相違無御座候、御入用之節者通表を以何時ニ而茂相渡可申候、仍而預一札如件、

  慶應四年辰七月      本間正七郎(印)(印影に見せ消ちあり)

    アカハネ

      代   文蔵殿

      同   清次郎殿

      船宿

       永田茶右衛門殿

 

(書き下し文)

    覚

ひとつ、金 一万八千両七百五十両なり、

              うち千両いり十二箱

                   (内訳略)

ひとつ、同じく 一万五千七百八十三両なり、  鉄炮丸薬代

                 すべてしめて

ふたくちしめて金三万四千五百三十両なり、

右の通り無利足にてたしかに預かり置き申すところ、相違ござなく候、御入用の節は通表をもって何時にてもあい渡し申すべく候、よって預かり一札くだんのごとし、

 

 

 

 

三万四千両もの大金を無利息で預けるところが大物たる所以だろうか。千両箱で12箱を含めて全部でとあり、「十九箱御封印のまま」とあるところから現金が実際に動いたようだ。大八車で運んだのだろうか。しかも「鉄炮含薬代」と使い道まで明らかにしている。実におおらかだ。「通表」は意味不明だが、金などの小判ではなく、藩札か為替のような状況によっては紙くず同然となりそうなもののたぐいと思われる。

 

なお、裏面に裏判と呼ばれる、文書の信用度を高める文字が見え、また欧文が5~6行にわたって書かれている。欧米の商人と取引でもしたのであろう。

 

この文書が残っているということは、この証文の趣旨が未了だったことに、普通はなる。しかし、印影に見せ消ち、つまり抹消の書き込みがされていることから、何らかのかたちで「決着」を見たようだ。