日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

2018-01-01から1ヶ月間の記事一覧

「可被申候」 なぜ連体形を使うの?  「べし」というべきでは? 「するべき」ではなく「す(る)べし」では?

ある番組を見ていたら「べき」「べき」と連発していた。べき乗の話かと思ったら、「べし」の連体形である「べき」だった。 活用を確認しよう 未然 連用 終止 連体 仮定(已然) 命令 べから(ず) べく べし べき べけれ なし 活用のある日本語では基本形、…

西郷どん挙兵計画の密書

西郷吉之助の密書が発見されたというので読んでみた。 御直披御留丁可被下候九月十六日夜薩藩西郷吉兵衛参物語ニ者、弊藩之人数大坂表へ明日明後日之内弐百五拾五騎相備大銃五百同■共四挺引付置候、間部慈郷カンボウ万一暴政之挿様相見え候得者、伏見迄引上…

「ブラタモリ 彦根」で紹介された文書を読む

・・・致シ方も無御座・ ・・・候様ニ御願奉申上候、 ・・・御年貢米預候 (書き下し文) ・・・致し方もござなく・ ・・・そうろうように、お願い申し上げたてまつりそうろう、 ・・・お年貢米預かりそうろう、 (大意) ・・・どうしようもありません。・ …

英雄たちの選択 秀吉VS山城 「永禄六年諸役人附」の出典 九戸政実と織田信長の席次

原文書の出典を東京大学史料編纂所「日本古文書ユニオンカタログ」で探したところ、静岡県史と戦国遺文今川氏編、群書類従巻511だったので、国立国会図書館デジタルコレクションにあたってみた。 92コマ~104コマ http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/255925…

渡辺謙は若君さま 西郷どん (4)新しき藩主  嘉永3年3月?島津斉彬宛西郷吉之助書状

今回西郷吉之助のセリフは第2回「立派なお侍」と異なり、文書を読み上げず、口語体で通した。文書中では島津斉彬を「若君樣」とする。若君呼ばわりされる渡辺謙もさすがに恥ずかしかったのだろうか。 (包紙ウハ書き) 「 西郷吉之助」 ・・・仕候(闕字)赤…

英雄たちの選択 秀吉VS山城SP 第2夜「天下統一最後の戦い“奥州再仕置”」  天正19年9月14日長束正家宛浅野長政書状写 大日本古文書 淺野家文書 61号文書を読む

態申入候、仍此表之儀、中納言樣(秀次)(闕字)御意を以、羽柴忠三(蒲生氏郷)、中納言樣より堀尾帯刀(吉晴)、江戸大納言(家康)より井伊兵部少輔(直政)各致同道、今度南部表へ相働申候、去朔日ニあなたい(姉帯)、ねそり(禰曾利)と申城二ヶ所、…

ファミリーヒストリー 石井竜也 明治後期 石井儀助宛石井靏次書簡を読む

・・・万断仕候野生方一日無事御安心被下成願候、扨諸物価日々高直ニテ直下ノ品物ハ□モ無之与先ツ安物ハ□(米)一斗三升二合小豆三升五合位□(大カ)豆二斗位、大根百本諸材抔ハ別而高直取極之次第ニこ座候所諸式節倹を旨とし施懈も在之候条御安心被下度候 …

英雄たちの選択 秀吉VS“山城”スペシャル 第2夜にて紹介された天正18年7月27日南部信直宛豊臣秀吉朱印状を読む

こちらに詳しい解説がある。 http://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kyoiku/e-kyodokan/files/2010-0604-1454.pdf 南部の「部」は原文では 覚 一、南部内七郡事、大膳大夫可任覚悟事、 一、妻子定在京可仕事、 一、知行方、令検地台所入丈夫ニ召置、在京之賄…

伊賀惣國一揆掟書案を読む その5/止

『中世法制史史料集 第五巻 武家家法Ⅲ』107頁、山中文書 惣國一揆掟之事 (9条) 一、前〻大和より對当國へ、不儀之働数度有之事に候間,大和大将分牢人*1許容あるましく候事、 (10条) 一、当國之儀ハ無恙相調候、甲か*2より合力之儀専一ニ候間、惣國出張…

英雄たちの選択 秀吉VS山城SP 第2夜「天下統一最後の戦い“奥州再仕置”」  「山の奥 海は櫓櫂の続くまで」「ことごとく撫で切り」再論

太閤検地の本質を表す表現として、1950年代からしばしば言及されてきた文言が、天正18年8月12日浅野長政宛豊臣秀吉朱印状に見える「山の奥海は櫓櫂の続き候まで」「一郷も二郷もことごとく撫で切りにせよ」である。 番組でしばしば引用された史料の全文の、…

伊賀惣國一揆掟書案を読む その4

(7条)一、当國之諸侍、又ハあしかる二不寄、三好方へ奉公被出間敷候事、 (8条) 一、國之弓矢判状送リ候二、無承引仁躰候者、親子兄弟をかきり、拾ケ年弓矢之用に立申間敷候、同一夜之やと(宿),おくりむかい共あるましく候事、 (書き下し文) ひとつ…

「人たらし」の意味、ご存じですか?

「ひとたらし」を漢字では「人誑し」と書く。「誑」は訓で「あざむく」と読み、意味は「あざむく、たぶらかす」である。 また1603年刊行の「日葡辞書」にはこうある。 Taraxi,taraxite タラシ、または、タラシテ 詐欺師、あるいは、口先だけでだます人 『邦…

伊賀惣國一揆掟書案を読む その3

『中世法制史史料集 第五巻 武家家法Ⅲ』106~107頁、山中文書 (五条、六条)一、國中之あしかる、他國へ行候てさへ城を取事ニ候間,國境二従他国城を仕候て(「ハゝ」カ)、足輕として其城を取、忠節仕百姓有之ハ、過分二褒美あるへく候,そのミニおゐてハ…

「愛媛県讃岐国」と「愛媛県伊予国」 1876年から1888年の11年間四国に存在した巨大県「愛媛」

明治6年2月、紆余曲折を経て愛媛県が誕生した。そのわずか3年後の明治9年8月香川県を合併し、巨大愛媛県が成立した。 上は現在の愛媛県と香川県であるが、明治6(1873)年から同21(1888)年12月まではこの両県を併せて「愛媛県」と称した。面積は6066キロ平…

ちはやふる 百人一首で変体仮名を学ぶ

在原業平朝臣 百人一首 在原業平朝臣 - 書の歴史を臨書する ちはやふる 神代もきかすたつた川 から くれなゐに みつくゝるとは 文屋朝康 白露ニ かせのふきしく 秋の野は つらぬきとめぬ 玉そ散りける 伊勢大輔 いにしへの ならの都の 八重さくら けふこゝの…

料紙の話 時代考証では「西郷どん」より「アシガール」に軍配???

アシガールは、現代と永禄年間(16世紀半ば)を往復するので、永禄年間の「手配書」(=白色)と現代に伝わる永禄3年3月19日羽木忠高宛松丸治部少輔書状(赤茶色)の色が異なっている。それはタイムスリップしたという時間差を示すのに一役も二役も買ってい…

戊辰戦争のひとこま 慶應・明治初年の絵図

福島県歴史資料館の「新公開史料展」に興味深い2点の絵図がある。 www.history.fcp.or.jp http://www.history.fcp.or.jp/2017/shinkoukai.pdf 絵図1.慶應4年7月 「御台場」の「御」は幕府への敬意を込めた表現で幕府直轄地の代官を「御代官」と呼ぶように、…

料紙の色について 調所広郷血判状は書かれたときから赤茶色だったか?  「西郷どん(3)」

「西郷どん」第3回で竜雷太演ずる調所広郷が自害にあたって、清国との密貿易および琉球派兵の件はすべて自分の責めであると書き残す場面があった。 さてわれわれは現時点で、経年劣化した赤茶けた文書を当たり前のように目にする。しかし、使用する当時から…

嘉永元年12月19日阿部正弘宛調所広郷血判状を読む 「西郷どん #3」

此度御家ヲ奉斯候上 清国ト密貿易仕候事 又琉球派兵ノ一件軍 勢ノ数ヲ奉偽候事 全テ独断ニ而取行候ニ付 御詫申上候モ行届間 敷事ニ御座候故 以一死大罪ヲ奉謝候 十二月十九日 調所笑左衛門広郷(血判) 阿部伊勢守正弘様 (書き下し文) このたび御家をかか…

安永7年7月蝦夷地奉行定

www.hokkaido-np.co.jp 定 一、御舟登候跡ニ而打遁口論致間鋪候事、 一、運上小家火之許大切可為用心事、 一、松前他国不限流船等支配之場所江流着候ハヽ早速夷船摘出舟頭水主どもニ右之書附相見セ候上ニ而可為介抱事、 一、右流人村々欠(=次:継紙の貼付…

内務省地方局有志編纂『田園都市』のはじめを数行読む 「ブラタモリ#96 田園調布」

ブラタモリ #96 田園都市 とびら この書籍は以下からダウンロードできる。 国立国会図書館デジタルコレクション - 田園都市 はじめの数行だけ読んでみる。というのも踊り字の「二の字点」が用いられているからだ。踊り字の画像はこちら。 http://www.sansei…

英雄たちの選択 秀吉VS“山城”スペシャル 第1夜「激突!小田原の陣」にて紹介された史料を読む

史料1 天正15年11月8日桑原百姓宛北条氏朱印状 人足壱人御倩(=請)以鍬箕を持 来、十二日山中へ集中十日 可致普請、倩賃永楽六十文 本松田兵衛太夫前より可 請取候者也、仍如件、 丁亥 十一月八日(朱印) 桒原 百姓中 (書き下し文) 人足一人御請け雇い…

昭和15年9月12日外務大臣松岡洋右宛在ハンブルク総領事川村博発機密第71号

北の丸公園前に国立公文書館がある。以前は20歳以上でないと入館できなかったが、現在はインターネットで年齢にかかわらずさまざま文書が読める。 利用案内の一部を引用してみよう。 閲覧室に持ち込めないもの 閲覧室には、次のものは、持ち込めません(コイ…

昭和15年1月11日外務大臣野村吉三郎宛在カウナス領事代理杉原千畝発機密第十四号文書を読む

「杉原千畝」で検索すると公開されている文書が読める。 www.jacar.archives.go.jp これを今回読んでみる。ただし人事課長などの決裁印は省略した。 機密第十四号(見せ消ち) 佐 昭和十五年一月十一日 在「カウナス」 領事代理 杉原千畝(印) 外務大臣 野…

伊賀惣國一揆掟書案を読む その2

(三条、四条) 一、上ハ五十、下ハ拾七をかきり在陣あるへく候、永陣二おゐてハ、番勢たるへく候、然ハ在々所々(踊り字は二の字点)、武者大將ヲ被指定、惣ハ其下知二可被相隨候、并惣國諸寺之老个ハ、國豊饒之御祈疇被成、若仁躰ハ、在陣あるへく候事、 …

伊賀惣國一揆掟書案を読む その1

『中世法制史料集 第五巻 武家家法Ⅲ』106~107頁、山中文書 惣國一揆掟之事 一、従他国当國へ入るニおゐてハ、惣國一味同心可被防之候事、 一、國之物云*1とりしきり*2候間,虎口*3より住*4進仕二おゐてハ、里〻鐘を鳴時刻を不写在陣可有候、然ハ兵糧、矢、…

徳川実紀をダウンロードする 大坂夏の陣は16コマ目から

NHK Eテレ「知恵泉」で紹介された徳川実紀の活字本が、国立国会図書館デジタルコレクションでダウンロードできる。 こちらからどうぞ。大坂夏の陣は16コマ目から。 国立国会図書館デジタルコレクション - 徳川実紀. 巻23−35 ただ、以前「小山評定」の回…

明智光秀丹波国多紀郡宮田市場定書写を読む 中世のスラップ訴訟を禁ず

惟任光秀丹波宮田市場定書寫 丹波志三 『中世法制史料集 第五巻 武家家法Ⅲ』 256頁 定 宮田市場 一、喧嘩(「嘩」=口偏に「花」)口論、押買、狼藉停止之事、 一、國質、所質、請取沙汰,諸式非分之族停止之事、 一、毎月市日 四日 八日 十二日 十七日 廿一…

向島百花園の七草

右から「すゝしろ」「せり」「ほとけのさ」「なすな」「はこへら」「すゝな」 「すずしろ」の「す」 「せり」の「り」 「ほとけのざ」の「け」 と「の」 「なずな」の最後の「な」 「うなぎ」の「な」と同じ 「はこべら」の「は」 「すずな」の「す」 参考サ…

小倉百人一首で変体仮名を学ぼう

周防内侍 はるの夜の ゆめはかりなる 手枕に かひなく たゝむ 名こそ をしけれ 春の夜の 夢ばかりなる 手枕に 甲斐なく立たん 名こそ惜しけれ 大中臣能宣朝臣 みかきもり 衛士のたく火の 夜ハもえ ひるハ消えつゝ 物をこそおもへ 御垣守 衛士の炊く火の 夜は…