日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

天正8年8月6日正直屋安右衛門尉宛羽柴秀吉判物

於明石郡*1借々*2付分之事、遂元利算用可召置*3候、其方儀者別而従前辺懸目候間*4、向後徳政判形*5遣候共、令免除上者*6、無異儀可召置候、質物*7同前也、

   天正八             藤吉郎

    八月六日             秀吉(花押)

      正直屋安右衛門尉

                         「一、258号、84頁」

(書き下し文)

明石郡において借り借し付け分のこと、元利算用を遂げ召し置くべく候、そのほう儀は別して前辺より目に懸け候あいだ、向後徳政判形遣わし候とも、免除せしむるうえは、異儀なく召し置くべく候、質物同前なり、

(大意)

 明石郡において貸し借りした分は、元利を計算した上でそのままの状態を保ちなさい。貴殿は従来より徳政免除を認められているので、今後徳政令が発せられても免除するのでそのままにしておくように。質草についても同様に対象外とする。

 図 播磨国明石郡周辺国郡

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                    『国史大辞典』「播磨国」より作成

正直屋は摂津国八部郡兵庫津の棰井家で、徳政免除の特権は三好長慶弟の安宅冬康書下や室町幕府奉行人連署下知状などによって確認できる*8。またのちに秀吉から兵庫津船役銭や兵庫町地子銭の徴収を任され、22石あまりの領知判物も下されている*9。領知を与えられているので秀吉の被官であることを意味している。

 

本文書は徳政免除の効力を明石郡のみに限定し、その他の地域からの貸借関係はその限りにあらずということを棰井家に伝えたものといえる。

*1:播磨国、図参照

*2:借り貸し

*3:そのままにしておく、載せて置いて。ここでは貸借関係を破棄しないでそのままの状態を保つの意

*4:三好長慶弟の安宅冬康や室町幕府奉行人が認めた徳政免除の特権

*5:書判・花押、ここでは花押の据えてある文書=判物

*6:徳政を命ずる文書が発せられても正直屋の借銭・質物は対象外とする

*7:質に入れる物、多くは土地

*8:兵庫県史 史料編 中世一』「棰井家文書」37~39頁

*9:同39~46頁