この書籍には「読者の皆様へ」と題されたパンフレットがはさまれている。20世紀最後の年、この通史刊行中に、旧石器遺跡捏造事件が露見した。この書の多くがその捏造された「遺物」「遺構」「遺跡」に負っているため、記述の信憑性が根底から覆ることも当然予想される。そこには次のような一文が見える。
多くの皆様からご質問も多数寄せられていますので、ここに、編集委員並びに編集部の見解をご報告させていただきます。
見解といっても事件が発覚した直後なので、今後の心がけ程度のことしか書かれていない。それも当然である。20年以上の「蓄積」が雲散霧消した直後のことだからだ。
卒業論文に関するトラブルをツイートしたなかに、友人のと断られているが、執筆中にこの事件に遭遇した4年生の悲劇に触れているものがあった。ご本人も不本意な卒論を提出しただろうことは推察できるものの、学生生活の集大成とどのように折り合いをつけたのか、その心情は想像だにできない。
パンフレットではさらにこう続く。
あらゆる学問は事実や資料にもとづくものであり、それが捏造されたり改竄されたりすることはあってはならないことで、今回の行為は、まことに許しがたい行動であります。
2000年11月といえば、コンピュータのY2K(Year 2 Kiro)問題を無事乗り越え、21世紀へのカウントダウンがはじまりかけたころである。もっとも、ミレニアムのカウントダウンを終えたばかりだが。
なお、この書籍はリコールされている。