日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

官兵衛紀行第36回、求菩提山宛黒田孝高外2名連署制札の解釈

ドラマ「軍師官兵衛」36話の「官兵衛紀行」において、次の文書が紹介された。

 

Fig.1

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それをこう読んでいる。

 

Fig.2

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この画面にナレーションがこう流れる。

 

「狼藉や喧嘩をする者は成敗する」と各所にお触れを出しています

 

なるほど「各所」に目をつぶれば「狼藉・喧嘩・口論を禁じた。背いた者は成敗する」という説明に誤りはない。しかし、誤りはないものの、何も説明していないのに等しいこともまた事実である。

 

それは「誰が」「誰に対して」濫妨狼藉をはたらき、それらの行為を「誰に」禁じたのかまったく言及していないからである。英文法の喩えを用いれば、SVOOのうち主語と間接目的語が抜けているのだ。

 

読んでみよう。

 

(竪紙)

    制札

一、くほて山*1対衆中*2らう

  せきの事

一、本堂まハり竹木採用事

一、けんくわこうろんの事

 右条〻堅令停止畢

 若違犯候輩堅可加成敗者也

 天正十五年十二月晦日 黒田官兵衛(花押)

            福原式部*3(花押)

            吉川蔵人*4(花押)

 

(書き下し文)

   制札

ひとつ、求菩提山衆中に対し狼藉のこと、

ひとつ、本堂まわり竹木採り用いること、

ひとつ、喧嘩・口論のこと、

右の条〻かたく停止せしめおわんぬ、もし違犯候ともがらは、かたく成敗を加わうべきものなり、

 

(大意)

   制札

ひとつ、求菩提山の者どもに対して狼藉をはたらくこと。

ひとつ、本堂の周囲に生えている竹木を伐り取ること。

ひとつ、(黒田軍の者どもが)喧嘩口論をすること。

右三ヶ条、禁じたところである。もしこの禁制を破った者がいたら、厳罰に処すこととする。

 

こうした制札・禁制は戦国期にしばしば見られる。寺社や郷村に対して、自軍の兵士が濫妨狼藉をはたらかぬよう、保証した文書だ。つまり、全般的に自力救済を否定した触れではなく、効力は制札の充所に限定される。

 

こうした制札はタダではない。対価を支払うわけであるが、あくまでも自軍の兵士の乱妨行為を禁じただけで、用心棒のように外敵から守るようなことはしない。

 

つまり、主語は黒田軍の兵士たちであり、間接目的語は求菩提山であるわけで、彼らが求菩提山に乱妨することを禁じた制札と解するのが正確な読み方である。さらに、毛利氏と連署している点も見逃せない。

 

 

最後に、一言言わせていただこう。

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*1:豊前国築城郡

*2:求菩提山衆中がこの文書の充所になる

*3:福原元俊

*4:吉川広家