日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

正徳6年5月3日長井又兵衛宛木津伊之助起請文を読む?

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(竪紙)

    敬白天罰灵*1社起請文前書

一、今度御流儀忍術御伝授忝奉存候然者御

  相伝之忍術忍器共ニ喩親子兄弟たりと

  いふ共他見他言仕間敷候尤知ぬ躰ニもてなし*2

  人ニ写させ申間敷候

一、萬川集海*3之内序正心忍宝之章*4ハ君命ハ
  不及申家老出改人見申度と御申候て懸御目
  申筈ニ御免被下候事
一、此迄持来御忍器火器之外萬川集海之外
  珍敷方便忍器火器考出シ候ハゝ御知を可申候
一、若師と不通*5之義出来申候ハゝ書写候書物返還
  可申候跡ニ而書写置申間敷候
一、萬川集海之秘術外之書へ書ましへ*6申間敷候
一、御相伝之忍術忍器為盗賊少も用間敷候但シ
  何ニよらす君命ハ各別*7之事
右之通少も相背申間敷候若少ニ而も於相背者日本国中
六十余州大小之神祇殊ニ氏神之御申付子〻孫〻
身上深厚ニ可蒙罷者也仍如件

  正徳六丙申年        木津伊之助
        六月三日       保□(花押)
     長井又兵衛様

 

 

(書き下し文)

    敬白天罰灵社起請文前書

一、このたび、御流儀忍術御伝授かたじけなく存じたてまつり候、しからば御相伝の忍術・忍器ともに、たとえ親子兄弟たりといふとも、他見・他言つかまつりまじく候、もっとも知らぬていにもてなし、人に写させ申すまじく候、

一、萬川集海の内、序・正心・忍宝の章は君命は申すに及ばず、家老・出改人見申したくと御申し候て、御目にかけ申すはずに御免下され候こと、
一、これまで持ち来たる御忍器・火器のほか、萬川集海のほか珍しき方便・忍器・火器考え出し候ハゝ、御知らせ申すべく候、
一、もし師と不通の義出来申し候ハゝ、書き写し候書物返還申すべく候、あとにて書き写し置き申すまじく候、
一、萬川集海の秘術、ほかの書へ書き交え申すまじく候、
一、御相伝の忍術・忍器、盗賊のため少しも用いまじく候、ただし何によらず君命は各別のこと、
右の通り少しもあい背き申すまじく候、もし少しにてもあい背くにおいては、日本国中六十余州大小の神祇、ことに氏神の御申し付け、子〻孫〻身上深厚に罷り蒙るべきものなり、よってくだんのごとし、

 

(大意)

     敬白天罰灵社起請文前書

一、このたび、この流儀の忍術を御伝授下さりかたじけなく存じます。さて御相伝の忍術・忍器ともに、たとえ親子兄弟とはいっても、他人に見せたり、他言することは一切しません。とくに知らぬ風を装って、他人に書き写させることはいたしません。

一、萬川集海の内、序・正心・忍宝の章は、主君はもちろん、家老・出改人が見たいとおっしゃった場合、ご覧に入れるはずとのお許しが下だされることになっています。
一、これまで伝え来た御忍器・火器のほか、萬川集海に記述のない、珍しい忍術・忍器・火器を考え出したならば、ご報告いたします。
一、もし師弟の縁を切るようなことになれば、書き写した書物をお返しいたします。あとに残るように書き写し置くことは一切いたしません。
一、萬川集海の秘術を、ほかの書物へ書き込むことはいたしません。
一、御相伝の忍術・忍器、盗みのために用いることはいたしません。ただし目的がなんであれ、主君の命令ならばこの限りではありません。
右の条々少しも背きません。もしほんの少しでも背いた場合は、日本国中六十余州大小の神祇、ことに氏神の罰を、子〻孫〻にいたるまで蒙ります。以上です。

 

 

*1:「霊」の異体字

*2:見せかける、ここでは素知らぬふりをするの意

*3:延宝4年成立の忍術書、伊賀国近江国甲賀郡に伝わる

*4:萬川集海の章立て

*5:縁を切ること

*6:交え

*7:格別