2014年NHK大河ドラマ特別展図録『軍師官兵衛』86号文書、86頁
図録では「書状」とするが、文頭に表題が掲げられていること、「御宿所」「人〻御中(おんなか)」などの脇付が記載されていないこと、書き止め文言などから当ブログでは判物とした。なお『豊臣秀吉文書集』一、620号文書でも判物としている。ただ「以上」という書き止め文言は近世中後期の願書など、上申文書に見られることが多く、今後の課題としたい。
日本中近世では、公的な上意下達、下情上申を本来私信であるはずの書状で伝えるケースが非常に多い。繰り返し述べているが、最近古文書(発給人、受給人が明示的な文書)を安易に「書状」と呼ぶケースが増えているが、古文書学的には誤っているので注意を要する。
「判」は現在では印鑑を指すが、花押を書判とも呼ぶので花押が据えてある文書を判物、朱印・黒印が捺されているものを印判状(それぞれ印肉の色により朱印状、黒印状)と呼ぶ。なお、正確には印鑑は捺された印影を意味し、印文が刻まれたもの自体は印形、印章と呼ぶ。したがって「印鑑を偽造する」という言い方は現在はともかく本来なら誤用で、「印章を偽造する」と呼ぶのが正しいことになる。
今日中ニ取出*1之堀のそとの小屋
(付箋)
「可壊取書置*2之事」
(一、カ)
(一、久カ)
[ ]太*8小屋儀ハ将右衛門*9くミ*10の衆(闕字)官兵衛*11
今日中ニ可被壊取事
たい候て今日中ニ隙*17を可被明事
(一脱カ)明日朔日人数右ニ申所まて可被打入*18事
陣はらい有間敷候小屋/\の火をけさせ
念を可被入候自然火もたきのこし小屋
より火出候ハゝ其くミの衆可為越度事
以上
美濃守殿
(書き下し文)
今日中に取出の堀の外の小屋、壊ち取るべき書置のこと
一、柴伊衆小屋の儀、美濃守手伝いすべき
一、久太小屋の儀は、将右衛門組の衆、官兵衛組の衆、隼人組の衆、このための衆手伝い候て、今日中に壊ち取らるべきこと、
一、筒順も、久太小屋の儀壊ち取りの手伝い候て、今日中に隙を明けらるべきこと、
明日朔日人数右に申す所まで、打ち入らるべきこと、
陣払い*20あるまじく候、小屋/\の火を消させ、念を入らるべく候、自然火も炊き残し、小屋より火出で候わば、その組の衆越度たるべきこと、
以上
(大意)
今日中に出城の堀の外にある陣屋破却すべきものを書き置くこと
ひとつ、柴田勝豊郡の根小屋を破却することは、秀長軍が手伝うこととする。
ひとつ、堀秀政の陣は、前野長康組の衆、黒田孝高組の衆、木村重茲組の衆、このための衆が手伝い、今日中に破却することとする。
一、筒井順慶も、秀政小屋の破却を手伝い、今日中に更地にすること。
明日、四月一日に、人数を右に書き出したところへ、軍勢を退却させること。
陣開きはしないこと。小屋小屋の消火を徹底させること。万一火も消し忘れ、小屋から出火した際は、その組の軍勢全体の越度としなさい。以上。
柴田勝家との合戦の戦後処理について、秀吉が弟である秀長に命じた文書である。
秀吉の軍勢は「組」や「衆」と呼ばれる組織で構成され、陣内での火気について「衆」全体で責任を負うことが記されている。
「為此衆」がよくわからないが、おそらく破却のためだけに徴発された「中間」「小者」「荒し子」などと呼ばれる陣夫で構成された「衆」であろう。