播磨
当国の風俗は、智恵ありて義理を知らず。親は子を誑(だま)し、子は親を欺き、主は被官に領地を少なく出だして、好き人を掘り出し度とこころざし、被官も亦忠勤を二段にして、調儀を以て、所知を得ることを計る。これ偏に盗賊の振廻(ふるまい)、侍は中々是非に及ばざる風義*1なりとぞ。
按ずるに、当国は南に江海を受け、山を負ひて、上々の風土なり。寒暑温和にして、万事富有の国なり。民俗本書に説く所のごとくなるは、風土の順気*2を受くるといへども、憂患に生きて、安楽に死するの道理*3にて、その心に躰忍する事なき故なり。実に古昔の武士にも、赤松党が如き、皆利心より出でて、本書のいはゆる是非に及ばざると云ふ者なるべし。
『人国記・新人国記』岩波文庫版、215頁
ひどい言われようである。親子、主従ともに互いを騙しあう、盗賊のような国民であるとする。その理由は山と海に挟まれ、温和な気候で、豊かな国であるから、と考察する。最終的には「是非に及ばざる風儀」、つまり「救いようのない風潮」であると断じている。
このようなものを武田信玄が愛読していたと伝えられているが、甲斐国も「頑固で物わかりの悪い」、「その善一にその悪十なり」、つまり長所の10倍短所があると悪し様に書かれている。