日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

武田信玄の愛読書「人国記」より「播磨国国民性」を読む

    播磨

 当国の風俗は、智恵ありて義理を知らず。親は子を誑(だま)し、子は親を欺き、主は被官に領地を少なく出だして、好き人を掘り出し度とこころざし、被官も亦忠勤を二段にして、調儀を以て、所知を得ることを計るこれ偏に盗賊の振廻(ふるまい)、侍は中々是非に及ばざる風義*1なりとぞ。

 按ずるに、当国は南に江海を受け、山を負ひて、上々の風土なり。寒暑温和にして、万事富有の国なり。民俗本書に説く所のごとくなるは、風土の順気*2を受くるといへども、憂患に生きて、安楽に死するの道理*3にて、その心に躰忍する事なき故なり。実に古昔の武士にも、赤松党が如き、皆利心より出でて、本書のいはゆる是非に及ばざると云ふ者なるべし。

          『人国記・新人国記』岩波文庫版、215頁

 

ひどい言われようである。親子、主従ともに互いを騙しあう、盗賊のような国民であるとする。その理由は山と海に挟まれ、温和な気候で、豊かな国であるから、と考察する。最終的には「是非に及ばざる風儀」、つまり「救いようのない風潮」であると断じている。

 

このようなものを武田信玄が愛読していたと伝えられているが、甲斐国も「頑固で物わかりの悪い」、「その善一にその悪十なり」、つまり長所の10倍短所があると悪し様に書かれている。

 

*1:風潮

*2:順当な気候

*3:孟子」に見える語。心配なときは自らを律するから、その命を全うできるが、安楽の時はかえって、その心がけを怠るから、死を招くという意