日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

慶長6年5月3日豊後国海部郡之内大佐井村・横田村宛加藤清正掟書を読む

 

 

          海部郡之内*1
            大佐井村
            横田村
    掟
一、当村之百姓隣郷と喧嘩口論并井論*2堺論*3
  切仕へからす、若他郷より非分之族於申懸
  者代官ニ申聞、公儀之沙汰たるへき事、
一、田畠不荒様ニ令耕作、永荒*4ニ至迄開作すへ
  し、年貢等万相定所すこしも相違有へから
  さる事、付逐電之百姓他郷ニ於在之者、代官
  ニ申聞、拘置所之代官ニ相理可令還住、又他
  郷ゟ逃散候百姓、一切かゝへをくへからさ
  る事、
一、年貢所当定所速令納所上者、自余*5のよこや
  く*6あるへからす候、代官請人申付といふ共
  非分之儀有之ましき事、
右条々相定所不可有相違、若違犯之族於在
之者可為曲事者也、
 慶長六年五月三日清正(花押)

 

(書き下し文)

    掟
ひとつ、当村の百姓、隣郷と喧嘩・口論ならびに井論・堺論一切つかまつるべからず、もし他郷より非分のやから申し懸くるにおいては、代官に申し聞け、公儀の沙汰たるべきこと、
ひとつ、田畠荒れざるように耕作せしめ、永荒にいたるまで開作すべし、年貢などよろずあい定むるところすこしも相違あるべからざること、つけたり逐電の百姓、他郷にこれあるにおいては、代官に申し聞き、拘え置く所の代官にあいことわり還住せしむべし、また他郷より逃散候百姓、一切拘え置くべからざること、
ひとつ、年貢所当定むるところ、速やかに納所せしむるうえは、自余の横役あるべからず候、代官・請人申し付くるというとも、非分の儀これあるまじきこと、
右の条々あい定むるところ相違あるべからず、もし違犯のやからこれあるにおいては、曲事たるべきものなり、

 

 

(大意)

    掟
ひとつ、当村の百姓は、隣郷の百姓と喧嘩・口論、用水相論・境相論と称して自力を発動してならない。もし他郷から言いがかりをつけてくるようなことがあれば、代官に注進し、公儀の沙汰を仰ぐこと。
ひとつ、田畠は荒れないように耕作し、永荒にいたるまで開墾しなさい。年貢など定めたことはすべてその通りにつとめなさい。つけたり、逐電した百姓が、他郷にいた場合は、当村の代官に注進し身柄を拘束し、その百姓をかかえている村の代官に告げた上で還住させなさい。また他郷から逃散してきた百姓を当村に一切置いてはいけない。
ひとつ、定められた年貢・所当、速やかに納めたうえは、その他の課役はあってはならない。代官や請人が命じたとしても、納めてはならない。
右の通り定めたので間違いのないようにしなさい。もし背く者がいたならば、罪科である。

 

 

一条目は中世以来の自力救済を禁じ、「公儀之沙汰」で村同士の争いを解決するように命じている。

 

二条目では、検地などで「永荒」とされた土地にいたるまで開墾して耕作するよう命じている。当然年貢諸役を課すわけで、徹底した在地支配といえる。また「付けたり」で逃散した百姓の扱いを定めているが、それぞれの土地を支配する「拘置所之代官」に断るよう定めている。これも村の自力で還住させることを禁じ、「公儀之沙汰」によるべしとしたものといえる。

 

三条目では、「横役」と呼ばれる「私的な」課役を禁じている。

 

この掟書の基本方針は中世的な自力救済の否定と、「公儀之沙汰」という文言に象徴される近世的な原則である。

 

 

豊後国海部郡関係図

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                 「日本歴史地名大系」佐賀県より作成

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                       Google Mapsより作成

 

*1:東京大学史料編纂所大日本史料総合データベース「史料綜覧」

*2:用水相論

*3:村境相論

*4:検地などで長期にわたって荒れ地とされた土地

*5:爾余、そのほか

*6:横役