日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

2018年4月11日放送「公文書をどう管理すべきか(時論公論)」について 「アーカイブズ」という言葉

 

放送を途中から見たため、内容はサイトにより確認した。

 

www.nhk.or.jp

 

ちょうど山口県文書館(もんじょかん)の職員がゴミの山から文書(ブンショ:以下「もんじょ」の場合はルビなし、「ぶんしょ」と読む時は「ブンショ」とルビを振る)を拾う場面からだった。もっとも気になったのは「文書館」をどう読んだのかだったが、サイトにルビは振られていなかった。

 

解説に足りなかった点はあまりに多すぎるが、「アーカイブズ」という言葉に限って記しておきたい。

 

安澤秀一氏は1980年代から、現用文書を「ぶんしょ」、非現用文書を「もんじょ」と呼び分けて区別すべきと主張している。

 

www.yoshikawa-k.co.jp

 

文書は英語で「archives」で、その他のヨーロッパ言語でも「アルヒーフ」「アルシーヴ」などと表現される。同様に文書館、文書館(ブンショかん)、公文書館、資料館、史料館、企業史料館などと日本語訳される施設も「archives」である。

 

映画「天使と悪魔」を偶然見たとき、バチカンの史料館の入口に「アーカイブズ」(イタリア語かラテン語かわからなかったが・・・)と思しき語が書かれているにもかかわらず、吹き替えは「図書館」だった。これは日本の文書館事情を反映した妥協の産物であろう。

 

それとは対照的に海外の旅行ガイドブックを見ると「アーカイブズ」は「古文書館」と書かれることが多い。「アメリカ国立公文書館」は「National Archives」、日本の国立公文書館は「National Archives of Japan」で「公文書(ブンショ)」に限定する英訳は見当たらない。

 

不幸なことに2000年代になるとコンピュータ用語として「アーカイブ」が、さらに過去の映像作品を「アーカイブス」(「ズ」と「ス」が異なる)と呼ぶ習慣が広まった。こういった事情などのためか、「アーカイブズ」関連用語は混乱を極めている。

 

本来、書籍や雑誌などの刊行物の閲覧、帯出などは図書館=司書(ライブラリアン)、モノは博物館で「展示」=学芸員(キュレーター)、文書は文書館で「閲覧」=アーキビストと分業されるのが理想である。

 

日本では古文書群を代替的に図書館や博物館が管理保管してきた。しかし、図書館では特別な手続きを要するし、博物館は閲覧施設をそなえていないということで、誰にでも公開されるという点で問題があった。そこで都道府県レベルでの文書館(もんじょかん/ブンショカン)の設立が80年代から各地ではじまり、現在にいたっている。

 

一方、私文書(公文書と私文書の区別をめぐる難点は後日)の保管は各企業で早くから進んでいる。老舗と呼ばれる企業では博物館や企業史料館などで古文書などの保管がなされ、創業時以来の経営をうかがい知ることが可能である。

 

また自治体として認められていないが、事実上の下請け団体に「字」(あざ)があり、その準公的機関が「区有文書」などとして自発的に古文書群を管理保管してきた歴史もある。数年に一度皆が集まって虫干しをしたり、目録と照らし合わせて点検し「合点」を書き込むケースも珍しくない(紛失した場合はその旨明記されていることも)。

 

公的機関で消極的だが、企業など民間などでは積極的であるという現象もまた日本文化を知る上で興味深い。

 

企業史料協議会(BAA)