日本中近世史史料講読で可をとろう

ただし、当ブログは高等教育課程における日本史史料講読の単位修得を保証するものではありません

日本中近世史料を中心に濫読・少読・粗読し、各史料にはできるだけ古文書学に倣い表題をつけ
史料講読で「可」を目指す初学者レベルの歴史学徒として史料を読んでいきます

昭和15年9月12日外務大臣松岡洋右宛在ハンブルク総領事川村博発機密第71号

北の丸公園前に国立公文書館がある。以前は20歳以上でないと入館できなかったが、現在はインターネットで年齢にかかわらずさまざま文書が読める。

 

利用案内の一部を引用してみよう。

 

閲覧室に持ち込めないもの

 

  • 閲覧室には、次のものは、持ち込めません(コインロッカーをご利用ください)。
  • 医療上その他の理由により持ち込む必要がある場合は、お申し出ください。
  • (中略)
  • (3) コピー機、スキャナその他の特定歴史公文書等に密着させて複写等を行う機器
  • (4) 刃物類(はさみ、カッター、かみそりの刃等)
  • (5) 傘
  • (6) 動植物
  • (7) 飲食物
  • (8) その他、館が、特定歴史公文書等の保存、館内の保全、良好な利用環境の維持等のため特に持込みを不適当と判断したもの

全面的禁止事項

 

  • 閲覧室では、次の行為を行わないでください。
  • (中略)
  • (4) 飲食及び喫煙
  • (5) 閲覧室出入口以外の場所から出入りしようとする行為
  • なお、館内で飲食する場合は、休憩室で行ってください。

 

特定歴史公文書等の取扱い

 

  • 特定歴史公文書等を利用する際は、次の事項を遵守してください。
  • (1) 特定歴史公文書等を閲覧室内の所定の場所で利用すること。
  • (2) 特定歴史公文書等を丁寧に取り扱うこと(手に持たず机に置いて利用する折り曲げない、無理に開かない、綴じを緩めたり外したりしない、書き込みをしない、指先を濡らしてページをめくらない、上から直接筆写しない等)。
  • (3) 特定歴史公文書等の中の頁等を抜き取る、切り取る、破り取る等の行為をしないこと。
  • (4) 筆記は、鉛筆又はシャープペンシルで行い、特定歴史公文書等を置く机の上に万年筆、ボールペン、蛍光ペン等を置かないこと。
  • (5) 特定歴史公文書等を閲覧室の外に持ち出さないこと。
  • (6) 特定歴史公文書等を返却するまでの間、十分に注意して管理すること。
  • (7) 特定歴史公文書等の利用中に一時的に閲覧室を離れる場合は、その旨職員に申し出ること。

 

閲覧室のご利用案内:国立公文書館

 

これらの注意は古文書の現物を取り扱う授業などの最初に、先生からこんこんと言い含められ、調査合宿時も繰り返し注意される。

 

 

そこで紹介されているのがこちら。

https://www.jacar.go.jp/modernjapan/p14.html

 

https://www.jacar.go.jp/modernjapan/images/p14/p08L.jpg

 

https://www.jacar.go.jp/modernjapan/images/p14/p08.jpg

  

無国籍「ワルテル・イスラエル・カスパー」の本邦通過願い出でに関する件

本年七月十一日附米三機密第一二号貴信に関し本件「ワルテル・イスラエル・カスパー」はドイツ系ユダヤ無国籍人と認めらるるところ(見せ消ち)、同人旅券写中には本年四月十日付在当地「ハイチ」総領事賦与にかかる「ハイチ」入国査証(写九頁)および同日付在当地「パナマ」総領事賦与の通過査証(写一〇頁)も取り付けておるにつき、ひとえに本邦を通過せしむるには形式上なんら差し支えこれなきものと存せらるも、この種事件は当国の「チェッコ」および「ポーランド」征服以来とみに増加し、その応答にはてこおどりおる次第なり、

  *「てこおどり」:慌てる

一方関係筋より仄聞するに中南米その他小国の領事・総領事中にはかかる避難民の窮状を利用し、手数料のほか多額の贈与を要求して通過ないし入国査証を賦与しおるありさまにして、その要求額は一件につきドイツ300マルクより900マルクにいたるとのことなり、

  *当時は「ライヒスマルク」(Reichsmark)。英語では「Reich」を第三帝国と訳すが、ふつうは「国」という意味で,オーストリアはドイツ語で「Österreich:エスターライヒ=東の国」と呼ぶ。

しかしてその中には本国の諒解を得ずして濫発するいわゆる空査証(Scheinvisum)もあり、したがってかかる査証の所有者はその入国拒絶せられ、これによりたとえば「パナマ」のごとき通過国においては多大の迷惑をこうむりおるよしなり、

 

  *Scheinvisum:scheinは「見せかけだけの、形だけの」、Visumは中性名詞で「査証」。ドイツ語ではKranke=患者、Haus =建物とあわせてKrankenhaus=病院となるような造語が多く、Scheinvisumも辞書には見られないが、外務省でそういった呼び方がされていたようだ。

 

みぎ空査証は一見無意味なるがごときもユダヤ人中にはもちろん無効なることを承知し、ただ通過諸国の通過査証を得んがための形式条件として、一小国の入国査証を得、途中好機会あればただちに爾余の旅行は放棄し、どこにても座り込む下心なるがゆえ、その意味において本空査証は出す方においても合意の上のことなるべし、

 

 * 座り込む:定住するの意か。

 *その意味において本空査証は出す方においても合意の上のことなる

  べし:そういった事情を知った上で現地駐在員は空査証を発行して

  いるに違いない。