戦国期に限らず、前近代において武芸に秀で、一廉の地位を獲得した者を世間では「武将」という。
『広辞苑』(第5版)では(1)軍陣の将、軍隊の将、(2)武道にすぐれた将としているので、近代、前近代を問わない可能性もある。したがって日本では明治以降の将官を「武将」と呼んでもよさそうだ。
ところが日本史の辞典になると事情は一変する。角川の『日本史辞典』が学生にはもっともポピュラーだが、手許にないので山川出版社『日本史広辞典』と吉川弘文館の『国史大辞典』をひいてみたが「武将」という項目はない。
『邦訳日葡辞書』(1603年)には「武士の大将=兵士あるいは軍勢の大将、武将に備わる=公方の位に挙げられる、すなわち軍隊の大将たる地位に挙げられる」(69頁)とあり、中近世移行期には(1)軍隊の指揮官(2)「公方」と呼ばれるような荘園領主や地頭、国人、大名などの領主という2つの意味で使われていたようだ。しかし、(1)の意味には当然ながら「領主」であることが前提とされる。したがって武将とは領主の軍事的側面に限定した用語であることになる。言い換えれば「武将」は領主の一面でしかない。だからこそ学術用語として使われることのない言葉なのであろう。